本当は手放したくないのだ、
そんな事は互いに言葉にしなくてもわかっていたはずだと、自負ではなく思う。
苦渋して掌を顔に押し当て、俯く自分の視界に入るのは
体中の打ち傷と打撲とそれを覆う包帯の白さだ。
この状態で、自身さえ守れるのかといっそ声を荒げたい衝動に陥る。
相手は欧州も手こずる大国である、政治的に、国土的に、あるいは肉体的にか。
どの方法でかはわからないが、満身創痍の小国が
容易に蹂躙されるだろうことは想像に難くない。
だというのに
「どうしてそんな顔するんですか?やめてください」
沈黙を打ち破って、力強い声で相手はそう言った。
普段通りの柔らかな抑揚に満ちた声は
今が非常事態である、という現実を失念しているようにさえ思せる。
そして言葉に促されて顔を上げれば、自分よりもずっと小さく弱くみえる彼は
穏やかに笑っているのだ。
普段どおりの逞しさで。
「貴方はこの時勢の中で中立を選んだ。
世界はそれを非難するけれど、僕はそれを誇りに思ってます。」
力強い声は詭弁ではないと理解させる。
「守るということは闇雲に力を振るう事よりも力の要ることです」
そういってこちらの掌に負傷していない方の自身の掌を重ねた。
包み込むように重ねられた手は微塵も震えず、屹然としている。
「そして今の貴方「だけ」ならそれを継続させることが可能なんだ」
その手は覚悟を表明しているのか、と苦い気持ちで思った。
守りたいものも守れず、何が中立か。
「いつのことだったか、覚えてますか
僕と貴方が植民地の政策に失敗して、蘭に大敗して傷だらけで帰国したとき」
まだ今ほど国境のはっきりしなかった時代のことだ、
奪い、奪い合う、弱者は強者を支配する、力が全てという単純な原理が通用していた時代に考えもなく無謀で無茶をしたことがあった。
確かに、そんなこともあった、と思い出す。
「あの後、負けて帰国して貴方と僕で、人里はなれた小高い山に登って。」
思いでを楽しそうに、語る。
「貴方がもくもくと登るから僕もそれにただついていって
傷も治りきってないのになんで、と思ってたら
貴方が頂上付近で止まって、それぞれの民家の光の群を指し示しながら
『俺は、あれを守る為だったら、何でも、する』
って言ったとき、その景色と貴方の横顔がびっくりするくらい、
きれいだったこと」
思い出を噛み砕き、ゆっくりと飲み干すように、そこで一度言葉を切った。
「僕、あの時の貴方の言葉と見た光景をを忘れらないんです。
あの思い出があれば、譲渡されてあの国でも
これまで通りに生きていける気がするんですよ」
当時、敗北した悔しさに、その原因と戦う意味を考えた時、
自然と自分の知る一番なじみのある場所に足が向いていた。
痛みも忘れ、ただ登りつめたとき
吐いた言葉は半分自分自身に向けて吐いたものでもあったのだが。
本人すら掠れていた過去をまだ覚えていてくれた、とは。
遥か遠い記憶を引きずりながら過去の自分の青さに苦笑する。
「だから僕はあの国に行きます。
貴方の、命令で行くんじゃない、これは僕の意志です」
はっきりと言う顔に迷いや不安の不吉な影は無かった。
一度決めたことを曲げない、頑固さがこの時は恨めしかった。
戦力差を考えれば、守らなければならないのは自分。
だが中立を名乗る以上、
必要以上の固執はそれ以外との他国との均衡を崩しかねない。
時勢が時勢である今、どういった理由で攻め込まれても文句は言えない。
人民をまもること。
目の前の相手を守ること。
天秤にかけ、揺らいだ瞳を射抜くように、目の前の相手はきつく掌を握り締め
笑顔で言った。
「僕は貴方に守られたいんじゃなんです。
僕は貴方の剣と、盾である事を選択しただけのことです」
僕見た目よりじょうぶなんで、
多分あっちでも平気だし
そんなに心配されなくてもだいじょうぶですよ、
貴方だって知ってるじゃないですか
そう茶化して笑顔で言う。
空元気ではなかった、詭弁でもなかった
ほんとうにそう思っているのだ。
苦い表情をしてしまった表情が伝染してしまったのか。
こちら見て、少し寂しそうな表情を浮かべる。
「お願いです。僕をただの、貴方の属国になりさがらせないでください」
そう押されてしまえば、それ以上自分の意志を通すわけにはいかなかった。
掌に更に自分の手を重ねて祈るように強く握り締めた。
=================================================
創作書きかけ途中。
創作なんで実在のなんやかんやとは関係ないです
そんな事は互いに言葉にしなくてもわかっていたはずだと、自負ではなく思う。
苦渋して掌を顔に押し当て、俯く自分の視界に入るのは
体中の打ち傷と打撲とそれを覆う包帯の白さだ。
この状態で、自身さえ守れるのかといっそ声を荒げたい衝動に陥る。
相手は欧州も手こずる大国である、政治的に、国土的に、あるいは肉体的にか。
どの方法でかはわからないが、満身創痍の小国が
容易に蹂躙されるだろうことは想像に難くない。
だというのに
「どうしてそんな顔するんですか?やめてください」
沈黙を打ち破って、力強い声で相手はそう言った。
普段通りの柔らかな抑揚に満ちた声は
今が非常事態である、という現実を失念しているようにさえ思せる。
そして言葉に促されて顔を上げれば、自分よりもずっと小さく弱くみえる彼は
穏やかに笑っているのだ。
普段どおりの逞しさで。
「貴方はこの時勢の中で中立を選んだ。
世界はそれを非難するけれど、僕はそれを誇りに思ってます。」
力強い声は詭弁ではないと理解させる。
「守るということは闇雲に力を振るう事よりも力の要ることです」
そういってこちらの掌に負傷していない方の自身の掌を重ねた。
包み込むように重ねられた手は微塵も震えず、屹然としている。
「そして今の貴方「だけ」ならそれを継続させることが可能なんだ」
その手は覚悟を表明しているのか、と苦い気持ちで思った。
守りたいものも守れず、何が中立か。
「いつのことだったか、覚えてますか
僕と貴方が植民地の政策に失敗して、蘭に大敗して傷だらけで帰国したとき」
まだ今ほど国境のはっきりしなかった時代のことだ、
奪い、奪い合う、弱者は強者を支配する、力が全てという単純な原理が通用していた時代に考えもなく無謀で無茶をしたことがあった。
確かに、そんなこともあった、と思い出す。
「あの後、負けて帰国して貴方と僕で、人里はなれた小高い山に登って。」
思いでを楽しそうに、語る。
「貴方がもくもくと登るから僕もそれにただついていって
傷も治りきってないのになんで、と思ってたら
貴方が頂上付近で止まって、それぞれの民家の光の群を指し示しながら
『俺は、あれを守る為だったら、何でも、する』
って言ったとき、その景色と貴方の横顔がびっくりするくらい、
きれいだったこと」
思い出を噛み砕き、ゆっくりと飲み干すように、そこで一度言葉を切った。
「僕、あの時の貴方の言葉と見た光景をを忘れらないんです。
あの思い出があれば、譲渡されてあの国でも
これまで通りに生きていける気がするんですよ」
当時、敗北した悔しさに、その原因と戦う意味を考えた時、
自然と自分の知る一番なじみのある場所に足が向いていた。
痛みも忘れ、ただ登りつめたとき
吐いた言葉は半分自分自身に向けて吐いたものでもあったのだが。
本人すら掠れていた過去をまだ覚えていてくれた、とは。
遥か遠い記憶を引きずりながら過去の自分の青さに苦笑する。
「だから僕はあの国に行きます。
貴方の、命令で行くんじゃない、これは僕の意志です」
はっきりと言う顔に迷いや不安の不吉な影は無かった。
一度決めたことを曲げない、頑固さがこの時は恨めしかった。
戦力差を考えれば、守らなければならないのは自分。
だが中立を名乗る以上、
必要以上の固執はそれ以外との他国との均衡を崩しかねない。
時勢が時勢である今、どういった理由で攻め込まれても文句は言えない。
人民をまもること。
目の前の相手を守ること。
天秤にかけ、揺らいだ瞳を射抜くように、目の前の相手はきつく掌を握り締め
笑顔で言った。
「僕は貴方に守られたいんじゃなんです。
僕は貴方の剣と、盾である事を選択しただけのことです」
僕見た目よりじょうぶなんで、
多分あっちでも平気だし
そんなに心配されなくてもだいじょうぶですよ、
貴方だって知ってるじゃないですか
そう茶化して笑顔で言う。
空元気ではなかった、詭弁でもなかった
ほんとうにそう思っているのだ。
苦い表情をしてしまった表情が伝染してしまったのか。
こちら見て、少し寂しそうな表情を浮かべる。
「お願いです。僕をただの、貴方の属国になりさがらせないでください」
そう押されてしまえば、それ以上自分の意志を通すわけにはいかなかった。
掌に更に自分の手を重ねて祈るように強く握り締めた。
=================================================
創作書きかけ途中。
創作なんで実在のなんやかんやとは関係ないです
コメント