同人小説

2008年3月31日
デネブは最後部車両の貫通扉を抜けると、
さらに重い扉を押し開けて屋外へ出た。
エンジン部の上、ベランダのようになった部分だ。

扉を押し開ると冷たい空気を肌に感じると共に、瞬間、目につく。
夜は深々と静かでその中に星がいくつもいくつも瞬いている。
眼下は何も無いまっさらな景色。
目前の砂漠は障害物を無くし、
仰ぎ見ることを必要とすらさせず
その輝きをそれぞれを天蓋いっぱいに見せ付ける。
宝石箱をいっぺんに転がしたような空だ。

綺麗だ。

でも悲しい。
デネブはなぜかしらその光景をそう感じた。

そして本来の目的のために少し先の、人影に声をかけた。
「侑人、そんなところにいたら風邪を引く」
静かに告げるが反応はない。
無視しているのではない。聞こえていないのだ。

ゆっくりと近づいてもう一度、同じ言葉をかける。
「侑人、そんなところにいたら風邪を引く」

「ん、ああ」
手すりに体を折るように持たれかけさせ、
茫と反応を返すのは自分の世界に入っていた証拠だ。
頭を上げてこちらをみたところで手持ちの毛布を肩にかける。

「夜は冷えるぞ。中に入ったほうが良い」
言っても意味が無いことは知っている。
侑人はここが好きなのだ。
星の見える。星に埋め尽くされたこの夜の空間が。

「もう少ししたら」
入る、とちいさく告げて侑人はまた体をくず折れるようにして
手すりに持たれかけさせた。

デネブにできることはせめて限られている。
夜さえ決して失速せずに走り続けるこの列車の
風避けになってやること。
覆うように毛布をかけさせ、飛ばないようにすること。
ただ侑人の隣にいること。

侑人は拒否しない。
肯定もしないが、こうやって拒否をしないときはイエスだ。
それをわかって、ただ黙って隣に在り続けた。
侑人が満足するまで、ここにいることが自分の役目だと思えた。

「なぁ、デネブ」
不意に語られる言葉にも鷹揚に
「ん?」と応えた。
それに対し侑人は饒舌に語り始める。
「星と星との間はさ、すっげー離れてるんだよ。
あの星もあの星も。それくらいは、お前も、わかるだろ」
「うん」

小さな光。

あれはとても小さいけれど、遠いからそう見えるだけで
本当はものすごく、想像もつかないような
大きなものなんだと以前侑人は教えてくれた。

「でさ、そんだけ遠いから星から星へ光が届くのに
 何億光年もかかるんだ。光年ってわかるか?
 光の速さのこと。1光年で地球を七回半もできるんだ」

難しいことは判らなかったが、侑人のいいたいことは
概ね理解できた。

「その光の速さでもってしても他の星に、届くまで、
 何億光年ってかかるんだ。今見てるこの光たちも」

侑人は頭上を指差し、一度、ぐるっと一回点させた。

「俺達が生まれるずっとずっと昔に何億年も前に
 それぞれの星から発せられた光なんだ」

「生まれるより、前から?」
デネブは興味津々で聞き返す。しんじられない、というしぐさで。
「そう」
侑人は頷く。
「俺が生まれるよりも、前から?」
更に聞き返したところで
「お前は俺より未来の人間なんだから余計当たり前だろ」
ばか、と頭を軽く小突かれる。
すこし、いたい。
でもこのほうがずっと侑人らしくて笑みがこぼれる。

そうして侑人は続ける
「だからあの先にある星はさ、
 もう本当はもう、あそこにないかもしれないんだ。
 届くまでの間に消えてるかもしれないんだ」

「消える?」

「そう、消える。星の寿命が来て、爆発して、ぱん、て。
 宇宙の中に還っていくんだ」

デネブには恐ろしいことのようにも、当然のことのようにも
悲しいことのようにも思えた。
そして言葉を失った。

「あの星たちが、何光年も年光年もかけて
 他の星たちに伝えようとしているものって一体、
 何なんだろうな」
ぽつり、とゆうとはつぶやいた。
そしてデネブは侑人の言葉の本質がそこにあることを理解した。

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某作品の同人小説です。
時間が足りなくなったのでまた今度続き書く。
どうしても星の話が書きたかった。
えーと、あの、びーとか、えるとかの話にするつもりはないので
元が何かわかっても通報しないでくださいお願いします。

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