POOL
2006年1月30日目を閉じて深くプールの中の暖かい水の中に沈み込む
浮かびあがることが嫌で、ごぽりと一つ大きく息を吐いた
何故そんな事をしたかと言えば
昔、人が水の中で浮くのは
肺が浮き袋の役目をするからだと言う言葉を思い出したからだ
肺の中の空気を吐き出してしまえばいいのではと思ったが
やはり、そう上手くは行かなかった
それでも浮き上がろうとする体を抑え、
手を上方に向けて掻き、上昇を避ける
肺の機能を全て停止させてしまえば、
その上昇を免れることができるのだろうかと想像したが
結局それも想像にすぎなかった
僕の体は、生きるように、生き続けるように作られているのだ
生きることは、美しくて、残酷で、悲しい、
僕がそう感じるのはこんな時だった
「なぁ」
上方から大きな声で呼ばれているのが解る
その声は水を透過してまっすぐ僕の耳の鼓膜を震わせた
目を開いて、上方を見ると揺れ動く水面越しに、
誰かが僕を呼んでいる、とわかった
水に対する抵抗を止め体からごく自然と力を抜くと
そのまま水面上に体が浮かび上がり顔を浮かばせた
少しの間だったが僕は水の中で溜まった二酸化炭素を吐き出し
新しい酸素を吸い込んだ
「なぁ何してるんだ」
不思議そうに眺められて
僕はややあって真顔で答えた
「自殺未遂」
「ふーん」
だからどうした、というトーンだった
「飯だから、もうあがってこいよ」
それだけ告げるとスタスタと歩いて去っていった
やめろ、とも冗談を言うな、とも言わなかった
多分彼にやめろ、と言われたら僕はすぐにやめたのだろうけど
何も言われない事で逆に、僕の手持ちはなくなってしまったのだ
だからその言葉を聞いて
浮かび上がった水面上で僕は笑ってしまった
そして眼前に広がる一面の天上を見上げて
水の中に広がる静寂を耳に入れながら思う
彼がいるから僕はこの水の中で浮かび上がろうとする体を
呪わずに済むんだ、と
それはそれは僕にとってこの上ない幸いで、幸福な呪いだと
生の中で、死との中間点を見ようとする僕に
目に見えない釘をさされる
それがそれだけ幸せな、重い足枷かと思ったのだ
そして全てがこうやって悲しみと喜びとが連鎖し、繋がっていく事も
そうして僕は体を反転させ、水面から体を離すと
縁に足をかけ体を起こした
水から上がったばかりの体は少し肌寒く感じた
重力の違いを感じて立ち上がり少しふらついたが
僕は彼の待つほうへまっすぐに歩く事が出来た
浮かびあがることが嫌で、ごぽりと一つ大きく息を吐いた
何故そんな事をしたかと言えば
昔、人が水の中で浮くのは
肺が浮き袋の役目をするからだと言う言葉を思い出したからだ
肺の中の空気を吐き出してしまえばいいのではと思ったが
やはり、そう上手くは行かなかった
それでも浮き上がろうとする体を抑え、
手を上方に向けて掻き、上昇を避ける
肺の機能を全て停止させてしまえば、
その上昇を免れることができるのだろうかと想像したが
結局それも想像にすぎなかった
僕の体は、生きるように、生き続けるように作られているのだ
生きることは、美しくて、残酷で、悲しい、
僕がそう感じるのはこんな時だった
「なぁ」
上方から大きな声で呼ばれているのが解る
その声は水を透過してまっすぐ僕の耳の鼓膜を震わせた
目を開いて、上方を見ると揺れ動く水面越しに、
誰かが僕を呼んでいる、とわかった
水に対する抵抗を止め体からごく自然と力を抜くと
そのまま水面上に体が浮かび上がり顔を浮かばせた
少しの間だったが僕は水の中で溜まった二酸化炭素を吐き出し
新しい酸素を吸い込んだ
「なぁ何してるんだ」
不思議そうに眺められて
僕はややあって真顔で答えた
「自殺未遂」
「ふーん」
だからどうした、というトーンだった
「飯だから、もうあがってこいよ」
それだけ告げるとスタスタと歩いて去っていった
やめろ、とも冗談を言うな、とも言わなかった
多分彼にやめろ、と言われたら僕はすぐにやめたのだろうけど
何も言われない事で逆に、僕の手持ちはなくなってしまったのだ
だからその言葉を聞いて
浮かび上がった水面上で僕は笑ってしまった
そして眼前に広がる一面の天上を見上げて
水の中に広がる静寂を耳に入れながら思う
彼がいるから僕はこの水の中で浮かび上がろうとする体を
呪わずに済むんだ、と
それはそれは僕にとってこの上ない幸いで、幸福な呪いだと
生の中で、死との中間点を見ようとする僕に
目に見えない釘をさされる
それがそれだけ幸せな、重い足枷かと思ったのだ
そして全てがこうやって悲しみと喜びとが連鎖し、繋がっていく事も
そうして僕は体を反転させ、水面から体を離すと
縁に足をかけ体を起こした
水から上がったばかりの体は少し肌寒く感じた
重力の違いを感じて立ち上がり少しふらついたが
僕は彼の待つほうへまっすぐに歩く事が出来た
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