「エーリッヒ」
名前を呼び、こちらに視線が合った事を一度確認する。
ちょう夕暮れ時のこの時間、窓からの後光で
金色の、ふちどりのようなもの形作っている。
逡巡の末に一言
「なぁ」
声を出す。
緊張の為かそれがじぶんのものでないような気がした。


恐いのは、拒絶される事ではなく
その先を越える事を、俺と選んでくれるかなのだ。



そっと恐れながらも手を伸ばすと、向かいにあった
掌にじぶんのそれを重ねる。
なにか、震えるようだ、と思った
触れた手の先に全神経と血流が集中したような感覚。

それでもややあってエーリッヒはこちらの様子をそれと知ってか、
再び目が合うと、穏やかににこりと笑ってこちらに返した。

ああ

わかっているんだ。

そう思った。
触れるというだけのこの単純な行為は
まるで恩恵を受けるような密やかで厳かな行為だ。
そしてそれを彼が受け入れてくれている、という尊さを思い知って
まるで胃の底が焼け付くようだった。

「エーリッヒ」
もう一度名前を呼ぶ、
「はい」
受容に似た、けれど透明な声で返答がかえってくる。
それが理解している、という合図のようで
非言語の共有とはこんなにも快いものだと思った。
同時にやはり、お前でなくてはならないんだと強く思う。

「覚悟はあるか」
迷った末に決意して吐き出した一言だったが
言葉にすれば思ったよりもその言葉はすんなりと口をついた。

「ええ」
先ほどと同様に穏やかに笑んでそういう。
そしてゆっくりと首を縦に振った。

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