NEVER EVER(シュミエリ)
2005年12月11日思えばあの不思議な、幸福に包まれていた日々は どうして。
ぱちん、と部屋の入り口すぐ傍にあった電源を入れた。
と、暗闇では見えていなかったがソファで眠っている人影に気付いた。
「悪い、寝てたか?」
シュミットが声を掛けると、被っていた毛布を振り払い、
眠りの体制から緩慢な仕草でゆっくりと起き上がる。
「いえ…大丈夫ですよ、さっき眠りだしたばっかりですし」
ゆっくりと起きあがりながら声に出す。
言葉とは裏腹にその声は明らかに寝声だったが
それもエーリッヒの優しさなのだろう、シュミットは思い
あえて追求はしないでおいた。
「こんなとこで寝てるなんて珍しいな」
いつもだったらこんなところで寝ていたら風邪を引くと注意するのは
エーリッヒの役割なのに、その姿がめずらしくて笑いながらシュミットはそう言う。
「考えが煮詰まってたんです。
少し仮眠でもとればすっきりするかと思ったんですが」
指で指し示す先、ソファの前の机には、
几帳面な性分には珍しく
あらゆる資料がバラリと乱雑に山積みにされており、
煮詰まった状態をそのまま現していた。
くしゃりと崩れた前髪を掌で掴みあげると、ゆっくり思い出すように
エーリッヒが言う。
「昔の夢を見ました」
「昔の夢?」
「そうです、昔の。
貴方と、アイゼンヴォルフで走っていた頃の」
一瞬驚きがあり、次の瞬間に懐かしい暖かい感情が甦ってくる。
自分達が、最も何かに1つのものに必死になっていた頃のあの瞬間。
思い出してごく自然とほころぶ。
「懐かしいな。」
「ええ」
「もう…たしか9年ほど…前か。」
回想しながら年月を指折り数える。
「そうですね」
もうそんなに年月が経つんですねとエーリッヒが相槌を打つ。
「あの頃が懐かしくって、まるで夢の中で自分が小学生に戻ったみたいで」
くすくすと笑いながらエーリッヒがそう言う。
「懐かしい」
その笑いに引きよせられて、自然に笑う。
「あの頃どうしてあんなにも1つの事に夢中になれたんでしょうね。」
あの頃の情熱と呼べるような、身を包んでいた幸福は一体。
「今だってそうだろう?」
シュミットの顔が近づいてきて、エーリッヒは自然に目を閉じる。
慣れた仕草で自然に唇に触れる。
体制を整えるために机に掌を乗せると
机の上に重ねてあった資料が雪崩を起こし崩れる。
「おっと」
シュミットが体を離し、崩れた資料を拾い上げる為にエ−リッヒ身をかがめると、
シュミットもそれに倣い拾い上げる。
ほら、と拾った紙束を差し出す。
「今だってほらこうやって、何かに夢中になってるだろう」
拾い上げたそれらの資料は全部あの頃の資料なのだ。
エーリッヒはその技術力を生かして、設計を仕事に就いた。
それはシュミットも同様であり、
煮詰まっている原因が何なのかそれも知っていた。
その言葉の意味が解ってエーリッヒも自然とほころんで笑う。
そしてその資料を受け取ろうと手を伸ばす
と
シュミットがその手首をぐいと掴んで自分側に寄せる。
一瞬だけ驚いたが、ゆっくりとそのままシュミットの胸の中に収まる。
そうしてシュミットが言う。
「ほら、何も無くしてなんかない」
和やかに穏やかに、心底
微笑むような言葉が胸にじわりと何か触れ、
何か心に落としたとエーリッヒは思った。
目頭が熱くなるというのは多分こういうことを言うのだろうと思った。
「僕は」
ただ仮にこれから先に何をなくしたとしても
思うのは。
「本当に貴方と一緒でよかった」
ぱちん、と部屋の入り口すぐ傍にあった電源を入れた。
と、暗闇では見えていなかったがソファで眠っている人影に気付いた。
「悪い、寝てたか?」
シュミットが声を掛けると、被っていた毛布を振り払い、
眠りの体制から緩慢な仕草でゆっくりと起き上がる。
「いえ…大丈夫ですよ、さっき眠りだしたばっかりですし」
ゆっくりと起きあがりながら声に出す。
言葉とは裏腹にその声は明らかに寝声だったが
それもエーリッヒの優しさなのだろう、シュミットは思い
あえて追求はしないでおいた。
「こんなとこで寝てるなんて珍しいな」
いつもだったらこんなところで寝ていたら風邪を引くと注意するのは
エーリッヒの役割なのに、その姿がめずらしくて笑いながらシュミットはそう言う。
「考えが煮詰まってたんです。
少し仮眠でもとればすっきりするかと思ったんですが」
指で指し示す先、ソファの前の机には、
几帳面な性分には珍しく
あらゆる資料がバラリと乱雑に山積みにされており、
煮詰まった状態をそのまま現していた。
くしゃりと崩れた前髪を掌で掴みあげると、ゆっくり思い出すように
エーリッヒが言う。
「昔の夢を見ました」
「昔の夢?」
「そうです、昔の。
貴方と、アイゼンヴォルフで走っていた頃の」
一瞬驚きがあり、次の瞬間に懐かしい暖かい感情が甦ってくる。
自分達が、最も何かに1つのものに必死になっていた頃のあの瞬間。
思い出してごく自然とほころぶ。
「懐かしいな。」
「ええ」
「もう…たしか9年ほど…前か。」
回想しながら年月を指折り数える。
「そうですね」
もうそんなに年月が経つんですねとエーリッヒが相槌を打つ。
「あの頃が懐かしくって、まるで夢の中で自分が小学生に戻ったみたいで」
くすくすと笑いながらエーリッヒがそう言う。
「懐かしい」
その笑いに引きよせられて、自然に笑う。
「あの頃どうしてあんなにも1つの事に夢中になれたんでしょうね。」
あの頃の情熱と呼べるような、身を包んでいた幸福は一体。
「今だってそうだろう?」
シュミットの顔が近づいてきて、エーリッヒは自然に目を閉じる。
慣れた仕草で自然に唇に触れる。
体制を整えるために机に掌を乗せると
机の上に重ねてあった資料が雪崩を起こし崩れる。
「おっと」
シュミットが体を離し、崩れた資料を拾い上げる為にエ−リッヒ身をかがめると、
シュミットもそれに倣い拾い上げる。
ほら、と拾った紙束を差し出す。
「今だってほらこうやって、何かに夢中になってるだろう」
拾い上げたそれらの資料は全部あの頃の資料なのだ。
エーリッヒはその技術力を生かして、設計を仕事に就いた。
それはシュミットも同様であり、
煮詰まっている原因が何なのかそれも知っていた。
その言葉の意味が解ってエーリッヒも自然とほころんで笑う。
そしてその資料を受け取ろうと手を伸ばす
と
シュミットがその手首をぐいと掴んで自分側に寄せる。
一瞬だけ驚いたが、ゆっくりとそのままシュミットの胸の中に収まる。
そうしてシュミットが言う。
「ほら、何も無くしてなんかない」
和やかに穏やかに、心底
微笑むような言葉が胸にじわりと何か触れ、
何か心に落としたとエーリッヒは思った。
目頭が熱くなるというのは多分こういうことを言うのだろうと思った。
「僕は」
ただ仮にこれから先に何をなくしたとしても
思うのは。
「本当に貴方と一緒でよかった」
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